第1回 データの保存・管理

 

帷子「では、先生、今回から、具体的な使い方の説明をしてくださるのですね。もし、前回の記事を読んでいない人はこちらをクリック!ですね」
先生「おおっと、突然出てきてびっくりした。漢字が読みにくいカタビラ君じゃないか。その前に、共通のルールを理解しておく必要があるんだ。授業中であっても移動中であっても、データの保存や管理については共通しているから、はじめにデータの保存と管理の方法について説明しておいた方がいいと思ってね」
帷子「さすがです先生。私も、せっかく作ったレポートデータをどこに保存したかわからなくなって見つからず、結局イチからもう一度作り直すということがよくあります。いい方法があったらぜひ教えてもらいたいです」

 

《フォルダ構造》

 フォルダやファイルはDropboxの中に作成して共有することになります(後述)。Dropboxはインストールさえすれば使用できますので、先にやっかいなフォルダとファイルに関する説明をしたいと思います。

 フォルダは自分が見たときにどこに何があるのか分かるような構造にしておくのがよいので、すでに自分のルールがある場合はそれを継続してよいと思います。フォルダ構造は、法律の勉強を、何を中心にやっているかによって変わってきます。法学部やロースクール生であれば学校の授業が中心でしょうし、予備試験であれば自習になるでしょう。学校での授業を中心としたフォルダ構造の一例を挙げるなら次のサンプルが考えられます。*1

 なお、以下のサンプルは、日本大学ロースクールの科目名を使用しています。最後にサンプルをまとめたスクリーンショットも掲載しますのでそちらもご参照ください。

┣刑事法系演習1
┗刑事法系演習2
 ┣第1回(職務質問)
 ┣第2回(所持品検査)
┣司法試験過去問
 ┣平成29年度
┣早乙女ゼミ
 ┣第1回(任意処分と強制処分)

 フォルダ構造は階層を深くしすぎることはおすすめしません。階層が深すぎると一覧性を欠くため、一見してどこに何があるのかが分からないからです。当たりをつけてフォルダを潜ってみたらまったく違っていたなんてことになると、改めてイチからフォルダを辿らなければならず、手間と時間だけがかかってしまいます。そして、フォルダ階層を深く分けなくても、検索機能を使えば目的のフォルダやファイルは見つけられるので、わざわざ細かくフォルダ階層を分類する必要もないのです。

 まず、科目フォルダを作成します。学年フォルダを作って、その下に科目フォルダを作るのはやめたほうがよいでしょう。科目名は学年に応じて異なっているはずなので、わざわざ学年フォルダを作って分ける必要はありません。もし、学年ごとに並べたいというのであれば、フォルダ名の先頭に「1年次刑事訴訟法A」「2年次刑事訴訟法B」などと頭に年次を付記すれば目的は達せられます。

 次に、科目フォルダの直下には、授業の回数ごとのフォルダ(便宜上、「コマフォルダ」という)を作成する。フォルダの直後に括弧書きで論点名を付しているのは、ファイラーで見たときにそのフォルダの中にはどのような論点に関する資料が入っているのか当たりがつけやすいからです。したがって、「第4回(小テスト)」などという書き方は、フォルダの中のファイルを見ないと何が含まれているのかまったく分かりません。この場合なら「第4回(小テスト・おとり捜査)」などとしておいたほうが便利でしょう。

 コマフォルダの直下には、原則としてフォルダを作成する必要はなく、当該授業で使用した資料はそのフォルダ直下にすべて保存しておけば足ります。1回で使用する資料はそれほど大量になるわけではないから整理するまでもないのです。考えられるとすれば、「その他レポート」フォルダくらいは作成してもよいでしょう。これは要するに、自分以外の学生が作成したレポートを保存しておくフォルダです。おそらく他人の作成したレポートは、予習段階で目を通す程度であり、普段の勉強や復習ではほとんど使用しないので、このようなフォルダにまとめて入れておけば、余分なファイルが目に入らなくて効率がよいです。なお、Dropboxのフリー版では保存容量の制限があるので、使用頻度の低いファイルについては、まとめて圧縮してzip形式で保存しておく方法もあります(その他レポート.zipなどのファイル名で保存しておけば、目を通さなくてよい圧縮ファイルであることが分かりやすいです)。

 学生同士でゼミをすることも多いと思います。ゼミについても、科目と同視して科目階層でのフォルダを作成しておくのがよいでしょう。ゼミによっては、1年で終わらず翌年に持ち越したり、卒業まで続いたりすることもあります。こういった場合は、1年目の第1回と2年目の第1回がでてくるため、「第1回(任意処分と強制処分)2017年」とか「2017年第1回(任意処分と強制処分)」などとしておけば判別できます(あわせて昨年の分については遡って「2016年」をフォルダ名に付け加えておく)。年度ごとに並べたい場合は後者の命名規則を使い、内容ごとに並び替えたい場合は前者の命名規則を使うとよいでしょう。手作業でリネームするのが大変であれば、リネーム専用のフリーソフトもあるので、これらを利用しましょう。なお、科目名フォルダの直下に、2016年フォルダや2017年フォルダを作り*2、その中に回数ごとのフォルダを作ることは一覧性を欠くことになるため、おすすめできないのは先に述べたとおりです。

 

《ファイル名称》

 ファイル名称もかなり重要です。フォルダ構造がわかりやすくとも、ファイル名称が不明確であれば、その都度ファイルを開いてからでないと内容を確認できないことになります。そこで、ファイル名称についてもできるだけ、一見してその内容の予想がつくファイル名にすることがポイントとなります。判例をPDFで保存しておく機会も多いと思われるが、「判例1.pdf」「最大判昭60年7月17日」などという名称はナンセンスです。筆者の考える例を挙げると次のとおりです*3

判例の場合
①最大判昭60・7・17民集39・5・1100.pdf
②最大判昭60・7・17民集39・5・1100(議員定数不均衡、違憲状態).pdf
③判例_最大判昭60・7・17民集39・5・1100(議員定数不均衡、違憲状態).pdf

 このようにして保存しておくと、レポート等で当該判例を引用する際に、ファイル名をコピー&ペースト(以下、「コピペ」という)するだけで、正しく引用することができます。②は、判決年月日だけでは内容がわからないので、括弧書きでキーワードを入れておくパターンです。判決年月日だけでも著名な判例であれば覚えておくべきなのかもしれませんが、使いやすさを考えればキーワードは必須です。③は、フォルダ内で資料を並び替えたときに、判例は判例だけで揃えたい、文献は文献だけで揃えたいというような場合です。適宜カテゴリ分けした種類をファイル名の頭につけておくことで、フォルダ内のファイルを種類ごとに並べることができます。ほかにも「文献_」「資料_」などとカテゴリを分けることもできます。

文献の場合
塩野宏・行政法(1)(有斐閣、第5版、2009)121頁.pdf

 判例や法律文献等の表示方法に関しては、法律編集者懇話会・法律文献等の出典の表示方法(特定非営利活動法人法教育支援センター・2014)などを参考にするとよいでしょう。この場合も、ファイル名の末尾に括弧で論点名を入れておけば、検索がしやすくなるのはこれまでと同じです。

レポート・ノートの場合
①レポート(公訴事実の同一性).docx
②レポート(公訴事実の同一性)_早乙女.docx
③レポート_金澤(優答).docx

 ①は、レポートであることとその概要が分かるように論点を括弧書きで記載したものです。これもファイラーで見たときに、レポートの内容を把握できるようにするためです。もっとも、これだと誰が作成したのかわからないので、自分が作成した場合に名前を付記したのが②です。名前でなく「自分」としてもよいでしょうが、作成したレポートを自分以外の第三者にメールで送るときに、「自分」ではおかしいので、それなら最初から名字を書いておくのがよいでしょう。ノートの場合は、レポートをノートやメモに置き換えればよいです。③は第三者が作成したレポートの場合で、さらにそれが優秀答案とされていたような場合です。他人の作成したレポートを見ることはあまりないでしょうから、圧縮してしまうのが通常ですが、このように優秀答案として参考にすべきものがあった場合は、圧縮フォルダの外に出しておいたほうが使いやすいです。 

 なお、日付を20170629のように付け加えるパターンもよく見られます。付けてもかまわないとは思いますが、ファイル名の頭に付けるのはおすすめしません。というのは、先頭に日付を入れてしまうと名前順に並び替えたときに数字順で並んでしまうため、ファイルを探しにくくなるからです。ファイル名に日付を含めなくとも、ファイルのもっているプロパティによって日付順に並び替えることはできますから、あえて日付を付ける必要はないでしょう。もっともファイルの作成日ではなく文書の作成日を分かるようにしておきたいときは、ファイル名の末尾に20170629(8桁にしておくのがおすすめ)と付しておけばよいです。

問題集など
①問題集(刑事法系演習II).pdf
②問題集(刑事法系演習II、刑事訴訟法、2年次).pdf
③問題第1問(強制処分法定主義).pdf

 授業の予習用に、事前に問題が配られていることもあるかもしれない。多くの場合は、PDFファイルで配布されることでしょう。複数の問題が1つのPDFファイルとして配布されている場合、①または②のようにして保存しておきます。科目名を書いておくのは、問題で検索をかけたときに内容が想像できるようにするためです。②のようにしておけば、&検索(アンド検索)を行うことで「刑事訴訟法の問題(検索ワードとしては、「刑事訴訟法」「スペース」「問題」)」で検索結果を絞ることができますので、より使いやすいものとなります。更に余裕があれば、個別の問題ごとにファイルを分割して、各問のPDFファイルを作成するのもよいでしょう。配布されている問題が、PDFファイルである場合は、【PDF Splite & Merge】というWindowsソフトを使用することで、既存のPDFファイルを個別ページごとに分割保存することができます。

 なお、PDFには透明テキスト付PDFというのが存在します。PDFファイルの文字を選択できる場合がそれです。これは、有償で販売されている【Adobe Acrobat Reader】を購入して、当該ソフトでPDFファイルを開くと透明テキスト付PDFとして作成してくれます。100%の正確性はありませんが、概ね日本語を認識してくれる。透明テキスト付PDFであれば、ファイラーで検索をかけたときに、Wordファイルのように、PDF内の文章についてもヒットするようになるので、より使いやすくなるでしょう。

 以上、フォルダ構造とファイル名称をまとめてサンプルを提示すると、このような感じになります。

  f:id:koubundou:20170901122535p:plain

 

 

《保存先ストレージ》

□Dropbox

 上記のフォルダ・ファイルを保存するのは、ローカル(パソコン内のハードディスク等)ではなく、クラウドにしたほうがよいでしょう。そうすれば、いつでも、どこでも、どの端末でも同じファイルを閲覧・編集することができるようになります。

f:id:koubundou:20170908132629p:plain  https://www.dropbox.comより)

 Dropboxは、クラウドファイルストレージサービスの1つです。特徴的なのは、クラウドに保存するだけでなく、ローカルにも保存されるということ。したがって、パソコンがオフライン状態でもファイルの編集ができます。オンラインになると自動的に同期が再開されるので、意識することなくクラウドとローカルのファイルを最新に保つことができます。オフラインで利用できるというのは非常に便利で、たとえばWi-Fi接続のみのiPadなどでも、電車内で保存しておいた判例やレジュメを閲覧することが可能となります。データ通信料は決して安くないため、Wi-Fi接続のときはデータを最新に保ち、外出先ではデータ通信を極力しないで通信料を抑えるということが可能になります。

 Windows用、Mac用、iOS用、Android用それぞれのアプリがあるので、使用を予定している端末すべてにアプリをインストールし、アカウントを作成しておきましょう。アカウント作成が完了すれば、あとは通常のフォルダと同じように使うことができるので、難しいことはありません。意識しておいたほうがよいのは、Windowsであれば右下のインジケーターアイコンが、緑のチェックマークになるまでは、クラウドとの同期が完了していないので、緑のチェックマークになってからファイルの閲覧・編集をしたほうがよいということくらいです。

  f:id:koubundou:20170901123443p:plain

  [写真1左:左から2番目がDropboxのインジケーターアイコン。緑のチェックになっているので、

   ファイルが最新に保たれている。]

  [写真1右:青の矢印が回転しているときは、同期中なので、完了するまで待つ。]

 

 万一、ファイルが競合した場合でも、自動的に別名のファイルで保存してくれるので、間違って上書きしてしまうということも避けられます。しかも、間違って削除してしまったファイルであっても、30日間なら復元することができる点も重宝します。

 ただし、使用にあたっては、二段階認証を行うなどセキュリティに十分注意して、保存ファイルが漏えいしないように注意しましょう。

  f:id:koubundou:20170901123838p:plain

  [写真2:削除したデータを回復することができるDropboxのウェブ画面]

 

 

□Evernote 

  f:id:koubundou:20170901124049p:plainhttps://evernote.com/intl/jp/より)

  Evernoteはあらゆる情報をアップロードして蓄積していくタイプのアプリです。ノートブックというかたちでフォルダに準じた構造を作成することはできますが、基本的な使い方は、気になる情報を次々にアップロードしていき、手の空いたときにタグ付けして整理しておくということになります。

 こちらも、各クライアント用のアプリが存在するので、使用を予定している端末すべてにインストールして、アカウントを作成しておきましょう。ノートブックやタグの作成方法については、授業内での活用の項目で触れたいと思います。

 これで一通りデータを保存・管理する準備が整ったので、次は、授業でどのように活用していくのかを考えていきましょう。ほかにも使用するソフトウェア・アプリは存在しますが、それらは記事の中で適宜触れていきたいと思います。

*1:フォルダ構造(ファイル名称についても)については、ほかにもっとよい意見や提案があると思いますので、本ブログまでご意見をお寄せいただけると幸いです。

*2:年の表記についても並び替えの便宜を考えると西暦で書くようにしましょう。明治・昭和・平成という書き方では思った通りの順序になりません。M・S・Hでも同様です。

*3:ここでの年の表記も西暦にしたほうが並び替えは便利ですが、引用の都合を考えると西暦を使わないほうがよいでしょう。

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