第0回 はじめに

 司法試験にしても公務員試験にしても、受験勉強の手段・方法は時代とともに変化しています。司法試験では、論文式試験の答案作成は当然のように手書きとなっていますが、将来は受験生1名ずつにパソコンが用意され、キーボードを叩いて答案を作成する時代がやってくるかもしれません。実務においても、訴状等の書面が手書きだった時代から、弁護士が秘書・事務員に口述で文章を伝えてタイプさせる時代を経て、今や弁護士がみずからキーボードを叩いて書面を作成するのが一般的なスタイルとなっています(更に進んで、パソコンに向かって口述することによって書面を作成している弁護士もいるかもしれません!)。

 勉強にも同じことがいえます。教科書を読みながら、アンダーラインを引き、重要なところはノートにメモする。問題を解き、手書きで答案を作成しながら、疑問点はノートにまとめておく。受験勉強においてはこういった作業が日常茶飯事に行われていることでしょう。本ブログは、IT技術を活用することで、これらの作業を現代風にアレンジし、より効率的な勉強ができないかを探求するものです。いやいや、勉強は紙とペンを使ってやるものだよという読者の方もいるでしょう。しかし、筆者は、受験勉強というのは単なる勉強にはとどまらないと思っています。受験勉強を通じて覚えたツールやノウハウは、今後の実生活をする上でも、そして、合格した後の実務においても活用できるのですから、受験勉強と同時に学んでおけば一石二鳥なのです。

 たとえば、学生がパソコンでレポートを提出するとします。マイクロソフト社製のワードを使用していれば、頁の挿入や太字、見出しの付け方、連番の振り方、段組みや文字数・行数の設定などを自然(強制的に?)と覚えていきます。ここで覚えることによって、レポート作成だけでなく、実務に出たときの書面作成にも活用することができるのです。実務に出てから、ワードで頁を入れるにはどうしたらよいのか、行数を指定するにはどうしたらよいのかという悩みをもたなくてすむのです。もし、これらを実務に出てからボス弁に聞いたら怒られてしまうでしょう(ボス弁も知らないかもしれませんが)。受験時代からITツールに慣れ親しんでいれば、実務についてからもITツールを活用した事件処理ができるようになりますし、新しいツールが登場しても、移行しやすいのです。いまだ、書面のやり取りはファクシミリが中心の裁判所と検察庁ですが、将来はe裁判所として電子データによる書面のやり取りも導入されることだろうと予測されますので、今からITツールに慣れておくことは、将来実務家として生き抜くためにも非常に重要であると思われます。

 さて、司法試験など法律に限らず、勉強に役に立つアプリを検索すると、勉強時間や勉強スケジュールを管理するアプリなど、単体で紹介されているものはいくつもありますが、これらのアプリを相互に連携させて活用するという勉強方法について触れたものは皆無のようです(あくまで筆者調べです)。本ブログでは、複数のアプリを上手に連携させて、勉強に役立てようというこれまでにない意欲的なブログなのかもしれません。

 筆者はロースクールで講義をしていますが、パソコンを使用してノートを取っている学生は、まだ数が少ないように感じます(社会人学生になると少し増える印象があります)。おそらくは金銭的な面が原因かとは思いますが、ここで紹介するIT術は、パソコンを使用して3Dゲームをするわけでもなく、画像処理を行うわけでもないので、低価格のもの(ワードとエクセルが付属していればよく、3万円台のもの)で足ります。本ブログを読んで興味をもった方は、飲み会に行くのを数回我慢して、パソコンを1台購入するとよいでしょう。

 筆者は、And六法というスマートフォン専用アプリを開発しています。OSのAndroid1.0は、私が弁護士になってすぐの2008年に登場しました。六法全書は分厚く、重たいものでしたので、Android携帯が登場したときは、これに六法をすべて入れて見ることができれば便利じゃないかと考えて開発がスタートしました。コツコツと帰宅後に開発をし、Android版の六法だから、And六法と名付けることにしました。こうして、And六法ver1.0がデビューし、Android版における総インストールユーザー数はもうじき30万に達します。なお、あまり知られていないのですが、iOS版も存在しますので、iPhoneをご利用の方もぜひお使いいただけると幸いです。

 And六法の開発は、弁護士実務と教員実務の両方を行いながら続けましたので、実務家視点での使いやすさと受験生視点での使いやすさの両方を兼ね備えるように考えました。特徴的なのは、条文の引きやすさを重視した画面下部の数字キーボードの常時表示で、大変好評をいただいております。And六法は、スマートフォン専用六法としてのデファクトスタンダードをめざして、現在も日々開発が続いていますので、ご愛用いただけると幸いです。

 さて、次回からは具体的な方法論に入っていきたいと思います。まずは、どの場面においても共通して必要になってくる「データの保存と管理」の面に焦点をあてて解説をしていきますので、楽しみにしていて下さい。

 

 

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