第2回 授業内でのIT活用――eノート

帷子「授業を聞いているときのノートはどうやって取ったらよいでしょうか。とりあえず手書きでノートを作って、それをスキャンして、PDFにして保存するといった流れでしょうか」
先生「もちろんそれでもいいのだけれど、ノートに書いてある内容まで検索できるようにしたいよね。そうした場合、手書きのノートをPDFにしたものだと対応が難しいから、やっぱりここはノートもパソコンを使用して文書作成ソフトを使って作成するのがいいと思うよ」
 「先生、見てくださいよ。私のノートパソコンは、タブレットにもなるし、ノートパソコンにもなるんですよ。これで手書きのノートを作成するのではだめなのですか」
先生「平くんまで登場したか。これは今流行の2in1だね。書類を見るときはタブレット型で、文書を作成するときはクラムシェル型*1で使用できるから便利だよね。たしかにタブレット型で手書きすれば、手書きの自由度そのままに保存できるから、スキャンをする手間暇はなくなるよね。だけれど、検索という観点からすると、必ずしも書き込んだ文字の認識精度が高くないため、検索に重点を置く私の立場からは、時期尚早かな。特に、みんな字が綺麗ではないだろうから、認識精度はますます落ちざるを得ない(笑)」
 「おっしゃるとおりです。高級ペンを使っていても、文字はきれいにはなりませんからね(苦笑)」

先生「そういわけで、文書作成ソフトを作成してノートを作る方法を解説しよう」

 

 

Wordファイル(ノート)の作成

 紙ベースでいうところのノートを、ここではパソコンの文書作成ソフトを使用して作成しますので、eノートとよぶことにします。文書作成ソフトは、有料のものでMicrosoft・Word(以下、「Word」という)、ジャストシステム・一太郎、無料のものでLibre Office・Writer等があります。実務では、以前は一太郎が多く使用されていたようですが、現在では裁判所も検察庁も法律事務所も、ほとんどがWordを使用しているようですので、学生時代からWordを使用して慣れておくのがよいでしょう。筆者は、文書作成はMicrosoft Wordを用い、日本語入力はジャストシステムのATOKというように組み合わせて使用しています。パソコンを新規に購入する場合は、Microsoft Officeのプリインストール機を選ぶようにしましょう。Office単体で購入するより、安く手に入れることができます。

 Wordを使っていれば、連番の振り方、文字数の設定、注釈の付け方、変更履歴の利用などは実務でも役に立ちます。参考までに、実務ではA4で、左側に余白30ミリ、26行×37文字として使うことが勧められていますので、訴状も準備書面もこれに従って作成しますが、eノートを取る場合には、これだと行間と文字数が少なすぎて間延びした感がありますので、こだわることはありません。

 さて、授業が始まったら(用意がよい人なら始まる前には)、予習している者は予習で作成したeノートを開き*2、そうでないものは新規ファイルを作成して(「Wordファイルを開く」といったほうがわかりやすいかもしれません)、先生の板書や発言をつぶさにメモを取っていきます。すべての発言を入力するのは大変ですし、頭を使わずただ打ち込むだけでは記憶に残らないので、要点だけを自分の予習と照らし合わせて入力していくことが重要です。もし、聴き逃しが不安であれば、同時に講義を録音しておくことを勧めます(第3回*3参照)。

 色分けなどの書式設定については、細かなことをしていると授業に追いつけませんので、復習時によく確認すべきと思う箇所に色を付けたり、太字にしたりという程度の処理で足りると思います。授業中は、先生の話を聞きながら重要と思える部分を考えながらeノートを取ることに集中すべきで、さらに細かい色分けや書式の整理などの作業は、授業終了後に行うか、先生の雑談中に処理してもよいでしょう(といっても、先生の立場からすると雑談にも理解につながる重要なヒントが数多く秘められているのですけれどね)。

 また、eノートを取るときは、検索したときにヒットするようなキーワードを入れるように意識しておきます。eノートの文書内にキーワードを入れておけば、WindowsやMacのファイラー(Windowsならエクスプローラー、Macならファインダー)でキーワード検索をした際にeノート内のキーワードにもヒットさせることができ、目的のファイルを探しやすくなります。eノート内に、キーワードという項目を作成しておき、そこにキーワードを入力しておくという方法でもよいでしょう。誤字脱字や表記の揺れがあると、検索にヒットしなくなるので注意してください。「拘留」や「意志」などとしてしまうと、正しいキーワードで検索してもヒットせず、ファイルの山に埋もれて二度と見つからないという悲しい事態になりかねません。

日本語入力

 意外と重要なのが、日本語入力。あなたはどの日本語入力ソフトを使用していますか。パソコンを購入後、気にせず使っている人のほうが多いのではないでしょうか。WindowsならIME、Macなら日本語IM(以前は「ことえり」)が標準でインストールされていると思いますので、多くの人は知らずとこれらの日本語入力ソフトを使用していると思います。ほかに、Google日本語入力というものもあります。

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  (左はATOK for Android、右はGoogle日本語入力)

 いずれも学習機能が付いていますので、普段使いしていれば、自然と法律用語も覚えていってくれるため、「いし」も「意思」と正しく変換するようになります。もっとも学習には時間がかかるので、どの日本語入力ソフトにも辞書ツールという機能がついています。要は、読み仮名と漢字をセットで単語登録して、その読み仮名を変換するときは、まずはこの漢字で表示してね、ということです。

 イチから自分で作成していくこともできますが、法律用語は膨大なので大変な作業になってしまいます。そこで、フリーの法律用語辞書をインポートしておけば、学習の手間は省け、かつ、一度に多数のよく使う法律用語が変換できるようになります。岡口基一裁判官が作成した【法律用語辞書】は、ジャストシステムのATOKおよびMicrosoft IME用の辞書データです。筆者は大学生の時代から使用していた記憶があります。当時は裁判官だとはまったく知りませんでしたが、今や『要件事実マニュアル』*4、そしてブリーフ判事として世間を賑わしましたので、すっかり有名になりました(それまで筆者のなかでは法律関係のマクロを作成している有名人というイメージでした)。ATOK用とIME用の2つのファイルが用意されています。パソコンで、Google日本語入力を使用している場合は、辞書ツールを使用して新規辞書としてインポートする際に、ATOK用またはIME用を選択すればうまくいきます*5

 ちなみに、Google日本語入力はパソコンとスマートフォンに入れて、自分のGoogleアカウントと紐付けしておけば辞書が共有されますので、より便利になりますから、スマートフォンでLINEを使って友達と会話をしているときであっても、法律用語を使用しやすいです(普段の会話で法律用語を使用してしまうのは、法学部あるあるでしょう)。MacのIMも、MacとiPhoneで辞書を共有できるようです。

 筆者はスマートフォンにはATOK for Androidを利用していますが*6、上記ATOK用ファイルを直接インポートしようとしてもうまくいきません。おそらくは、提供されている辞書データの形式が異なるためだと思われます。そこで対応策を探してみたところ、各種ユーザー辞書の変換フォームというウェブサイトを見つけました。ここで、最新のATOKの辞書データ形式に変換をすれば、インポートできるというわけです。

  

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 「ファイルを選択」から、ダウンロードした法律用語辞書のテキストファイル(法律用語辞書(ATOK用)(H20-9))を選択します。そして、出力形式に、「ATOK形式(SJIS)形式で」を選択します。これで、「辞書出力」ボタンをクリックすると、新規に作成されたファイルがダウンロード(「20170926172637_atok_sjis.txt」のような日付と時刻の入ったファイル名で出力)されます。

 このファイルを、スマートフォンのATOKから読み込んでインポートします。筆者が試した所、1509の単語が登録されました(文字が長過ぎるなどそして、5つの単語がスキップ、3つの単語が登録失敗)。これで、法律用語をスマフォでも簡単に変換することができるので、「意志」と「意思」の選択に悩まされることなく効率的に文章を作成することができます。

 

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図解の作成

 法律の勉強では、多数の関係者が複雑に絡んでくるので字面を読んでいるだけでは理解できない場合が多いですが、図解を作成すると頭に入りやすいです。実務においても、相談者の相談を聞きながら図解を作成して、事案の概要を把握していきますので、事案の図解を作成することは受験勉強の間だけではないのです。先生が板書した図解はもっとも洗練された図解ということができますので、必ず控えておき、将来自分の力で同様の図解を作成できるようにしましょう。

 では、それをどのようにしてeノートに取るかという問題があります。手書き入力ができるタイプのパソコンであれば、手書き機能を使用して作成し、Wordにコピー&ペーストで、貼り付ければ可能です。ペンの種類を変更したり、色を変更したりするのは、ソフトウェア上のボタンで切り替えられるので、キャップをして新しい色ペンを持ち替えて、キャップを外して、、、という手間がなく作業は捗ると思います。

 タッチパネル非対応で手書き機能のないパソコンの場合はどうすべきでしょうか。授業中にWordの図形作成機能を用いてマウスだけで関係図を作成するのはかなり難しいと思います。そこで、紙に手書きし、授業終了後にスマホで写真撮影(またはスキャン)して、jpg形式(またはpng形式)で保存された写真をeノートに貼り付ける方法を採ることになるでしょう。無理にWordの図形作成機能を使用するよりは簡単ですし、なにより複雑な図解でも対応できますので、この方法がお勧めです。ホワイトボードを最後に写真撮影するという方法でもよいですが、授業後まで残っているとは限りませんので、一度は紙に描いたものを写すほうがよいです(そうすれば、板書をさらに補充して書き込むこともできます)。理解のある先生でしたら、板書を消す前に写真を取らせてくれるかもしれません。

 写真を取る場合は、シャッター音が出てしまいますね。授業中に写真を撮る行為ですら憚れるのに、音が出るのは尚更気になります。したがって、シャッター音を出さないカメラアプリをインストールしていてこれを使用することになるでしょう。iOSでは、StageCameraHD - 高画質マナー 無音カメラというアプリがあります。Androidでは、無音カメラというアプリがあります。もっとも、先生には事前に授業中に板書を写真撮影してよいか確認を取っておくようにしましょう。

 さて、最近のスマートフォンで撮影した写真はファイルサイズが大きすぎてストレージ容量を圧迫しかねないので、貼り付ける前に、サイズを圧縮しておいた方が容量を削減できます。私の場合は、【写真リサイズ】というアプリを使って圧縮してスマートフォンに保存してから、パソコンへ写真データを移動して、Wordに貼り付けています。サイズはどれでもよいのですが、画質にこだわるものではないですから、一番小さい25%のサイズで十分だと思います。もし貼り付けたときに見にくいようであれば、圧縮サイズを調整してください。参考画面では、1.2MBあった写真が、51KBにまで圧縮されました。

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  (参考画面)

eノートの保存

 授業が終わったら、eノートを保存します。フォルダ構造とファイル名については、第1回目「データの保存・管理」を参考にしてください。

 授業のeノートなら、Word形式(doc形式、docx形式)のまま保存しておいても特に問題は生じませんし、むしろそのほうが後の編集を考えると便利でしょう。もし、後の変更を防ぎたい場合は、Word形式だけでなく、PDF形式としても保存しておきましょう。Wordで保存する際に、「名前を付けて保存」を選択してPDF形式を選んで保存することができます。印刷したものをスキャナーで取り込んでPDFにしている姿を見かけることがありますが、実はWordから直接PDFファイルを作成することができるので、覚えておくと便利です。 

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Evernoteへアップロード

 eノートを保存したら、Evernoteへ当該ノートを添付ファイルとしてアップしておきます。Evernoteはプレミアム版であれば、添付ファイル内の全文検索にも対応していますので、後に検索をかけることを考えると有料版にしておいたほうが便利です。ベーシック版では、ファイル名までは検索にヒットしますので、ファイル名の付け方が重要になってきます。もし、ベーシック版でもeノートの内容に記載されている用語等 に検索でヒットさせたいという場合は、面倒ですが、作成したeノート内の全文をコピペして、Evernoteのノートに貼り付けておくことになるでしょう。では、Evernoteでの初期設定は、どのようにしておいたらよいでしょうか。私の提案は次のとおりです。

ノートブック
憲法、行政法、民法・・・というように、法律ごとのノートブックを作成しておく。

タイトル
具体的な論点名を書いておくと、一覧したときに書かれた内容が明らかであって使いやすい

タ グ 

①講座に関するタグ

 憲法総合、刑事法系演習2、クリニック・・・というように、講座のタグを作成する。講座のタグを作っておくことによって、講座名でソートをかけることが可能になるから、定期試験前の勉強に際しては、講座名でソートして該当するノートだけを勉強することが可能となる。

②論点に関するタグ

 強制処分、訴因変更・・・というように基本書の目次を参考に、ある程度の大分類をタグにしておくと便利である。すなわち、刑事訴訟法であれば論点としては「GPS捜査の強制処分性」であるが、大きな分類だと「強制処分と任意処分」といったような具合に。憲法なら、論点が「居住・移転の自由」であれば 、 「経済的自由権」といった具合である。この分類については、自分が使用している基本書や参考書の目次を参考にして付ければよいだろう。こうしておくことによって、たとえば、経済的自由権のタグでソートをかければ、経済的自由権に関する論点のみを一覧することができるから、弱点克服などの項目を限定した勉強に活用することができるようになる。

③条文に関するタグ

 憲法13条、刑事訴訟法198条・・・というように省略しない法律名称+条数をタグとして作成し、付する。項まで入れると細かすぎるので条文まででいいと思う。これは、後日、憲法13条に関する情報を調べたいとなった場合に、憲法13条のタグでソートをかけることができるので、いわば自分だけのコンメンタールとしての役割を果たすことができる。また、Android版アプリの【And六法】では、法律名称+条数でEvernoteへ直接検索をかける機能を有しており、検索した条文について、簡単にオリジナルのコンメンタールを閲覧することができるため、利便性が高い。なお、Evernoteで1アカウントあたりに付けられるタグ数は10万が限度であるが個人が使う分には十分だろう。もし10万を超えそうな場合は、条文に関するタグは使わずに、Evernoteのノート内に、条文を記載して対処できる。このようにコツコツ情報をEvernoteへ集約しながら勉強していけば、司法試験直前には立派なオリジナルのコンメンタールが完成しているはずだ。

 

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  (Evernoteのノートブック、タグの設定画面)

 

六法の参照

 授業中は、机があるので紙の六法を使用しているでしょうが、本稿はIT活用術ですのであえて紙の六法は使用しない方法を提案します。

 パソコンを使用している場合は、総務省のe-Gov法令検索をブラウザで開いておけば、ほとんどの法令はその場で閲覧することができます。以前は、法令データ提供システムとして稼働していましたが、10月2日より完全にe-Gov法令検索に移行しました。法令を調べたいときは、Googleで具体的な法令名を検索すれば、e-Gov法令検索のリンクが先頭でヒットします。もっとも、法令は読みたい条文までマウスでスクロールしなければ閲覧できませんし、スマートフォン用の表示もできないので、使い勝手が良いとはいえません。以前の法令データ提供システムについては、条文ジャンプ機能であるAnd六法法令データ提供システム条文ジャンプを筆者が開発し提供しておりましたが、e-Gov法令検索では残念ながら使用できません。e-Gov法令検索版も開発しましたら、告知したいと思っています。

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 もちろん、And六法を卓上において使用しても結構ですが、これについては移動中に使用するというシーンで説明したいと思います。

 

 

  

 

*1:ヒンジ部分で2つに折りたためる構造になっている形状のノートパソコン。ノートパソコンと言った場合にみなさんが通常思い浮かべるものだと思えばよいでしょう。

*2:予習でのeノート作成に関しては後日公開予定。

*3:録音については、第3回で取り扱う予定。

*4:岡口基一『要件事実マニュアル〔第5版〕』(ぎょうせい・2016~2017)

*5:筆者が最近試したところ、1508個の単語のインポートに成功しました(一部取り込めない単語もありました)。

*6:独自入力方式のフラワータッチ入力が、なれるまでは大変ですが、慣れてしまうと効率よく日本語が入力できて手放せなくなります。

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