金澤「先生も大変ですよね。大学の教員をやりながら、実務もやり、アプリの開発もやり、さらに、マジシャンもやりますよね。私の結婚式では大変お世話になりました」
移動中の場面
日常生活において移動中の場面としては、自宅と、学校や会社間の通学通勤する場面を想定して考えるのがわかりやすいでしょう。大切なのは移動手段の違いです。徒歩、電車、車(道路交通法71条により運転中のスマホ操作は禁止されているので、タクシーやバスという前提)、飛行機(出張や旅行のため)、船(あまりいないか・・・)という複数の手段の組み合わせが考えられます。その中でも比較的じっくり勉強ができるのは、やはり電車の中だと考えられます*1。そこで、ここでは、電車内での勉強方法について考えてみたいと思います。
ちなみに私は、弁護士1年目の頃に所属していた事務所(海事専門)の教育により、タンカー船に乗って1ヶ月ほど旅をさせてもらったことがあります。船員はフィリピン人がほとんどですので、英語の勉強をしようと英語の本を数冊もっていきましたが、船酔いでとても勉強はできませんでした。ですので、船中での勉強は厳しいものがあります。
スマートフォンを使える環境に
電車内といっても、それが新幹線か、在来線か、座っているのか、立っているのか、テーブルがあるのかなど様々な条件があります。新幹線で指定席があれば、勉強道具さえ揃っていればテーブルが狭いこと以外には不便はないでしょう。冒頭の会話に出てくる金澤君は高崎から新幹線で通い、通勤中は外書を読んでいるとのことで、有意義に通勤時間を使用しているようです。
立っている場合
都内で通勤通学をしていれば、あの満員電車の中で勉強なんて不可能だと思われるかもしれません。しかし、通勤通学はほぼ毎日するものであり、片道30分だとしても1日1時間、1年で365時間の勉強時間が確保し得るのですから、この時間を無駄にすることはできません(1日10時間勉強するとして、約1ヶ月分にもなります)。
立った状態で勉強するには、少なくとも片手はフリーでなくてはいけません。片手は吊革を掴み、もう一方の片手はカバンを持っている状態ではもうお手上げです。両手が塞がった状態では、スマートフォンを触ることができないので、カバンは股に挟んで下に置くことで片手はフリーにしましょう*2。
スマートフォンを操作することができれば、世界は無限に広がります。これまでの連載で扱ったとおりにITを活用していれば、すべての勉強資料は、Dropboxを経由して、スマートフォンから閲覧(編集)することができるのです。今では地下鉄でも携帯電波が入りますのであまり問題にはなりませんが、スマートフォン用Dropboxは、ネット接続が必須であることにはご注意ください(事前に見たいファイルはダウンロードしておけば、オフラインでも見ることができます)。
スマートフォン1台で勉強することになりますので、画面切り替えの方法をしっかり覚えておきましょう。資料を見つつ、六法を確認するという作業をスマートフォン1台でやるため、頻繁に画面を切り替える場面が想定されるからです。
Androidの場合は、履歴ボタンをタップすることで、これまで起動していたアプリ一覧で表示されます。閲覧したい画面をタップすると、その画面を閲覧することができるようになります。見ている画面を閉じて、見たいアプリを起動して・・・・・・という作業を繰り返していた人は、履歴機能を活用してください。
iPhoneの場合には、ホームボタンをダブルクリックすることで、同様のことができます。
座っている場合
座っていれば、両手もフリーですし、スマートフォンの操作も容易ですね。上記のとおり、スマートフォン用Dropboxはネット接続が必要ですが、PC用はオフラインでも編集可能です。膝上にノートパソコンを開いて、パソコンで資料を閲覧した方が文字も読みやすく捗るだろうと思います。パソコンであれば、作成したeノートの編集もできるのがいいですね。また、ノートパソコンで資料を閲覧すれば、スマートフォンは、条文の確認に使用することができます(後述)。
ノートパソコンではなく、2in1パソコンを使用している人もいるでしょう。MicrosoftのSurfaceなどは、大変優れた性能なのですが、キックスタンドが膝上だと安定しないという話を聞いたことがあります。ですので、2in1パソコンを購入する場合は、膝上でも安定するか購入前にしっかり確認したほうがよいでしょう。
もっとも、新幹線のようにテーブルがあれば、2in1パソコンも安定しやすいものとなります。
参考までに、筆者が使用しているのはNECのLavie Hybrid Zero です。タッチ対応にもかかわらず重量が800グラム程度と他に類を見ない軽さで、パワーもデスクトップ並みで(ただし、カスタマイズした場合)、使い勝手の良いノートパソコンです。書面をちょっと読みたい時はタブレットスタイルにしながら使い、書面を作成したい時はノートパソコンとして使用しています。
条文の確認
混雑した電車内で、カバンの中から重厚な六法を取り出し、該当の条文をめくるのは大変な作業です。重たい六法を手にとることで、重心が上になり、電車の急発進や急停車に堪えられなくなります。そもそも、学校や会社に六法は置いてあり、持ち歩いていないかもしれません。そこで筆者の開発したスマートフォン用の六法アプリである、And六法 の登場です*3。
And六法は、条文参照のしやすさを意識して作成されたアプリです。これさえあれば、重たい六法とはおさらば、スマートフォンさえあれば、いつでもどこでも条文を確認することができます。And六法の開発秘話については、他の出版社の宣伝で恐縮ですが、第一法規の『法苑』183号(2018年)に執筆させていただきましたので*4、そちらをご参照ください。
And六法は、eGov法令検索で提供されている法令を読み込んで表示するシステムになっています。従来は、法令データ提供システムとしてHTML形式で提供されていたデータが、XML形式で提供されるように大幅に仕様が変更されました。そのため、仕様変更に合わせるためにAnd六法もアップデートが急遽必要となり、色々とユーザーの皆様にはご迷惑をおかけしました。そういうわけで、iPhone版についてはアップデートが追いついておらず放置された状態で申し訳ございません。
さて、And六法を初めて起動した場合は、トップページが表示されます。トップページには注意事項や、最近アプリ内に登録された判例が表示されます(判例を閲覧するにはアプリ内課金が必要です)。
画面の構成は図解したほうがわかりやすいと思うので、次の図をご参照ください。
初期状態の法令リストには、司法試験用六法に掲載されている法令が登録されています。自分の参照したい法令がない場合は、メニューから、法令追加を選んで、目的の法令を検索して登録してください。追加可能な法令は、eGov法令検索にて検索可能な法令であり、こちら のとおりです*5。
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And六法の主な機能 ①目次が表示されます。 ②閲覧したい法令を選択したい場合は、ここをタップして一覧から選択します。 ③現在閲覧している法令内の文字列を検索します。この機能は現時点では不具合があります。 ④各種メニューの一覧が表示されます。判例の定期購読や、法令を追加したい場合はこちらのメニューから移動します。 ⑤検索した条数に関連する判例を閲覧できます。 ⑥現在の法令に関係する法令及び条文を小さいウィンドウで表示させることができます。 ⑦検索した条数に関するEvernote内のノートを検索します。 ⑧検索した条数の履歴の前後を移動します。 ⑨連続入力することで、該当条文にジャンプします。2秒経つとクリアされます。 |
法令リストから目的の法令を探してタップすると、条文が表示されます。サイズの大きな法令(所得税法が特に大きく20MBもあります)については、読み込みに非常に時間を要するので、気長にお待ち下さい。
読み込んだ法令は、スマートフォン内に保存され、以後は保存されたデータを読み込む仕様になっています。したがって、電波の届かない場所にいても一度読み込んだ法令を閲覧することができますし、無駄な通信費用の節約にもなりますし、読み込み速度もあがります。
条文の検索は、条数により検索する方法を基本としています。画面下にあるキーボードで条数を入力すると、該当条文までジャンプします。2秒経過するとクリアされるため、2秒以内に必要な条数を入力してください。
検索した条文については、⑥アイコンをタップすると関連法令が閲覧できるものがあります。また、アプリ内課金で判例を定期購読していれば、⑤アイコンをタップすると関連判例を閲覧することができます。ちなみに、この関連判例は筆者及び協力弁護士によって手動で登録しています。
いかがでしょうか。これなら片手で条文を確認し、ついでに判例も勉強することができるのではないでしょうか。
さらに自分の作成したeノートとの連携もできます。⑦アイコンは、Evernoteとの連携機能になります。条文を検索した状態で⑦アイコンをタップすると、Evernoteが起動し、自動的に法令名称+検索条数をキーワードにEvernote内を検索します。第2回の記事 で書いたとおり、作成したeノートはEvernoteにアップロードもされています。ノート内に法令名称+条数が書かれた箇所があれば、⑦アイコンをタップすることによって、Evernoteから該当データを検索するようになっています。このように、あなたの作成したeノートと条文を関連付けることができるため、上手に使うとAnd六法はあなただけのMyコンメンタールとなるのです。
基本書の確認
法律の基本書は、分厚くて重たいものです。これを持ち歩くのは大変ですし、電車内で取り出し、開くというのも大変な作業です。片手で本を支えて読むことになろうものなら、ちょっとした筋トレになってしまいます。また、いざ参照したいと思ったときに該当する基本書を所持していないかもしれません。
これを解決する方法としては、①購入した基本書を自炊する、②Kindle版を購入することで解決できます。①の方につきましては、自炊する時間を勉強に当てたほうが良いと思いますし、本ブログの性質上、各自で調べていただくことにしましょう。
②のKindleとは、Amazonによる電子書籍です。専用の端末もいくつか販売されており(8000円~3万5000円程度)、これらを利用すれば目に優しいので長時間読んでも疲れないようです。もっとも、極力、荷物を減らすという観点からすれば、Android版とiPhone版のKindleアプリもありますので、こちらをスマートフォンにインストールして使用すればよいでしょう。私はそのようにして使っています。紙ベースで読んだほうが読みやすいのは確かなのですが、各科目1冊、基本書がKindleで保管されていれば、いつでもどこでも何の科目でも勉強できるので、便利であることは間違いないでしょう。
択一の勉強
電車内で論文の勉強をすることは難しいと思います。スマートフォンで入力して論文を書くことは可能ですが、効率が悪すぎます。それに対して、択一の場合は各設問に3、4分程度と、電車内にいる時間に合わせて設問数を調整すれば中途半端になることもないので、択一の勉強が適当だと思います。
また、これも手前味噌になりますが、筆者製作の択一過去問アプリ「択ロイド」がAndoroid版でリリースされております。択ロイドは、司法試験の過去問をすべて五択形式にしています。したがって、「正しいものに1を、間違ったものに2を」という形式の問題も五択形式になっています。解説は各年度ごとにアプリ内課金となっておりますが、問題と解説を一画面で同時に見ることができるように工夫した画面になっていますので、問題と解説のページを行ったり来たりするという煩雑な作業をしなくてよいのも、アプリならではの機能といえます。過去問と正解を見るだけでしたら無料で使用できますので、まずはお試しください。
まとめ
これまでのIT学習術をしっかりと身に着けていれば、スマートフォンが1台あれば、電車内では十分な勉強ができるのです。予習問題を見ることもでき、自分の解答を読むこともでき、六法も見ることができ、択一を解くこともできるのです。ぜひ、移動中の時間を有効に活用して、1年の間に13ヶ月分の勉強をして、早く合格を勝ち取ってください。
*1:タクシーは車内が暗く、揺れる。飛行機だと離着陸時は電子機器の使用ができないし、やはり暗い。船に至っては大型船でなければ、揺れてとても文字を追えないでしょう。
*2:Googleグラスのようなウェアラブルデバイスが発達すれば、両手が塞がっていても勉強できる環境の整う時代がいつかやってくるでしょう。
*3: iPhone版も存在していますが、法令データ提供システム廃止の影響により、残念ながら現在は機能しておりません。
*4:『法苑』には、本ブログでも登場している平くんや金澤くんも執筆しています。
*5:法令検索にない法令を登録するには、裏技になるが、とりあえず適当な法令を登録して、法令番号を登録したい法令のものに変更するという方法がある。この場合は、データ保存フォルダ内に、当該法令番号.xmlという名称で法令データを保存する必要がある。